名古屋家庭裁判所岡崎支部 昭和49年(少)633号 決定 1974年11月14日
少年 K・S(昭三一・一〇・二二生)
主文
少年を新潟保護観察所の保護観察に付する。
理由
(非行事実)
少年は、昭和四七年三月新潟県中魚沼郡○○村の中学校を卒業し、同年四月より愛知県岡崎市内の○鳩○リ○ン工業株式会社で工員として働き同市内の寮に居住していたところ、友人もなく、話し相手もいないことからその淋しさを深夜ひとり飲酒し市内を徘徊するなどして紛らしていたものであるが、
第一 一 昭和四八年六月一六日午前一時ごろ、同市○○町×丁目××番地菓子小売商○○○やこと○木○方(木造瓦葺二階建店舗併用住宅)前の路上を通り掛つた際、同店東側軒下に包装紙くず等の入つたダンボール箱一個を認めるや、うさ晴らしのため、これに放火すれば近接する店舗柱に燃え移り現に人の住居に使用する同人方店舗併用住宅が焼燬するに至ることを予見しながら所携のマッチをすつて上記ダンボール箱内の紙くずに火を放つたが、間もなく通行人に発見消火されたため、同人方の柱の一部をくん焼したにとどまり、上記家屋を焼燬するに至らなかつた、
二 同年七月二日午前雰時四〇分ごろ、同市○○町×丁目××番地食品小売商○○商店こと○井○市方(鉄骨一部木造瓦葺二階建店舗併用住宅)前の路上を通り掛つた際、同店西側軒下に集積されていた紙くず等の入つたダンボール箱および木製の商品陳列台等を認めるや、うさ晴らしのため、これに放火すれば近接する同人方の日除け等に燃え移り現に人の住居に使用する同人方店舗併用住宅が焼燬するに至ることを認識しながら、所携のマッチをすつて上記ダンボール箱内の紙くずに火を放つたが、間もなく通行人に発見消火されたため、同人方のシャッター、ビニール製日除け等をくん焼したにとどまり上記家屋を焼燬するに至らなかつた、
第二 昭和四九年四月二〇日午前一時ごろ、同市○○通り×丁目付近を徘徊中、同×丁目×番地所在の○天○商業共同組合所有の共同店舗(木造二階建店舗、靴商○原○郎方ほか一三店舗、面積三四五、九二平方メートル)内の通路に立ち入つた際、同通路上に紙くずの入つたダンボール箱等をみとめるや、気晴らしにこれに火をつけようと決意し、ダンボール箱二個を携えて同店舗北西角の共同便所に赴き、同所において、上記ダンボール箱に放火して放置すれば上記共同店舗およびこれに隣接して建てられ現に人の住居に使用する化粧品店○○○やこと○田○一方(木造三階建店舗併用住宅、面積一六四、二五平方メートル)等が焼燬するに至ることをも予見しながら、あえて上記ダンボール箱の一つの中の紙くずに所携のマッチをすつて火を放つたうえ、これを同便所のコンクリート床上に蹴り倒し、もつて上記共同店舗および○田○一方店舗併用住宅一棟を全半焼させた、
ものである。
(適用法令)
第一の一、二の各事実につき 刑法一一二条、一〇八条
第二の事実につき 同法一〇八条
(処遇等について)
一 少年は、新潟県中魚沼郡○○村で農業を営む実父K・J、実母K・T子の三男として出生養育され、同村の中学校を昭和四七年三月に卒業し、同年四月から愛知県岡崎市内のポリエチレン加工会社に工員として就職、同市内の寮に居住していたところ、就職後一年余りを経た頃から、仕事に飽きはじめるとともに、職場や寮にも友人を得られない不満を感じたが、転職する気にもなれず、そのころより、ひとり、自動二輪車(排気量七五〇cc)を高速度で運転したり、飲酒し深夜市街を徘徊するなどして淋しさをまぎらすようになつた挙句、気晴らしに本件各非行を犯したが、(なお、本件各非行について少年には積極的に家屋を焼燬しようとの意欲まではなく、ダンボール箱等が目につくままに、いずれ誰かが大事に至る前に消火するであろうという気持で火を放つており、その故意は未必の故意に留まるものと認められる)この間怠勤はなかつたものである。
二 しかして、本少年には、社会的に未熟で常識に欠けているうえ、性格的には意思薄弱で自信に乏しく、自己不確実感が強いところからいつたん不平不満を懐いても積極的に発散解消することが出来ず逃避的行動をとりやすく、対人関係においても積極的にその場を構成していくことがなく内閉傾向を保持していることが認められ、このことが本件各非行の要因をなしているものと考えられる。
三 そこで、当裁判所は、少年の上記の如き人格全般の未熟さはさておき性格上の偏りはさほど大きくなく、又一般的な非行性は認められないこと、少年の家庭には軋礫もなく、保護者の保護能力にも期待が持てること等諸般の事情を考慮し、これを試験観察に付し、名古屋市内の竹園寮にその補導を委託して約五ヵ月の間少年の動向を観察し社会内での社会的発達の可能性を検討するとともに本件各非行の重大性の自覚を計つたところ、そのいずれについても一応の目処を得ることができた。しかしながら少年の持つ社会的未熟さ等の矯正は一日にして得られるものではなく、又少年は郷里で左官の仕事に就きたい旨希望し、両親もその受入れの姿勢を有しているものの今後も親元を離れて生活することも十分ありうること等を考慮すれば、なお専門家の周到な指導と保護が必要である。
(結論)
よつて少年法二四条一項一号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 島内乗統)